不眠症は睡眠導入剤を使わずに治せる

我が国では成人の約5人に1人が不眠症状を持っているとされています。さらに約20人に1人が睡眠薬を服用しており、これは世界でも非常に特異な状態といえます。睡眠薬の有害性が理解されている欧米ではこれほどの睡眠薬使用はありません。夜よく眠れないというだけでは不眠症とはいえないことを知っていますか?医学的には、「夜眠れないために日中調子が悪い状態が3カ月続いた場合」を不眠症と診断します。

不眠の症状の中には、下記の四つの代表的なものがあります。
「何度も目が覚める(睡眠維持困難)」
「早朝に目が覚める(早期覚醒)」
「熟眠感がない(熟眠困難)」
「なかなか寝付けない(入眠困難)」です。

寝付きが悪い

眠ってから頻回に目覚める

眠っても早く目覚め過ぎる

上記のいずれかの症状がどれくらいの期間続いているかが重要です。
日中に眠気や倦怠感などの症状が出現しているかどうかも大切です。

入眠困難の原因となるものに「レストレスレッグス(むずむず脚)症候群(RLS)」があります。レストレスレッグス症候群(RLS)では、就床時に「足がむずむずする」「足がほてる」「足の奥が痒い」などの異常感覚が生じます。腎障害、貧血や妊娠中に合併することが多いとされています。RLSは、ドパミン作動薬プラミペキソールとロチゴチン、α2δリガンドのガバペンチンエナカルビルなどが奏効します。

不眠症とまぎらわしい疾患には、睡眠時無呼吸症候群やうつ病があります。睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、睡眠中の呼吸障害により日中に過剰な眠気を呈します。睡眠維持困難や熟眠困難を自覚することも多いです。SASは、睡眠中の動脈血酸素飽和度を測定し、確定診断には終夜睡眠ポリグラフ検査が必要です。うつ病の場合も不眠のみを自覚するケースもあります。早朝覚醒、離床困難、抑うつ気分、食欲低下なども伴いますので注意すれば区別可能です。

人は睡眠時間が、新生児期が最も長く、加齢に伴い短くなっていくのが自然です。夜間の睡眠時間は15歳で約8時間、25歳で約7時間、45歳で約6.5時間、65歳で約6時間と、20年ごとに30分ずつ短縮することが研究の結果、判明しています。ところが夜間に寝床で過ごす時間は加齢とともに長くなり、75歳では7.5時間を超えています。生理的な睡眠時間は短縮しているのに、寝床で過ごす時間が長くなれば、不眠を自覚するようになりがちであることは素人が考えてもわかる話です。

高齢者の不眠には、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(ゾピクロン、ゾルピデム、エスゾピクロン)が推奨されています。副作用が少ない薬剤として、入眠障害には体内時計に働きかけるメラトニン受容体作動薬(ラメルテオン)、中途覚醒には覚醒系を抑制するオレキシン受容体拮抗薬(スボレキサント)も使用されています。しかし、多くの医療機関で、生活指導なしで睡眠薬に頼った不眠症治療を行うケースが多いので問題となっています。健康な人は年を取ると睡眠時間が短くなるということをまず啓蒙する必要があります。年相応の睡眠時間を心がけるようにすれば、睡眠薬は不要になるのです。高齢になれば、早寝早起きではなく、遅寝早起きでも良いのだということを理解することが重要です。年齢にかかわらず適正な睡眠を得る方法があります。睡眠導入剤などを使わずに熟睡できる方法を学ぶことが大切です。

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